もっとロシアピアニズムのことを知りたい。
手首の使い方が大事みたいだけれど、具体的にはどんな感じなんだろう?
こんな疑問に答えます。
こんにちは!ゆきおです。
コンサートや動画でピアニストが演奏している姿をみて、「とても自然で楽そうに演奏しているなあ」と思ったことはありませんか?
そういうピアニストは、きっと手首の使い方もすばらしかったはず。
ロシアピアニズムでは、一般的な手首の使い方に加えてさらなる役割をもたせます。
3年間学んできて、解説できるようになってきましたので、特有の手首の使い方を紹介していきますね。
具体的にイメージできるような動画も紹介するので、きっとあなたの演奏に活かせるアイデアを得られますよ!
手首の使い方は、ロシアピアニズムの最重要項目のひとつ
ロシアピアニズムの要は、手首の使い方にあるといっても過言ではありません。
手首の役割は、おおまかに下記の通りです。
- 手首で身体の重さを伝える
- 手首で指の運動を助ける
- 手首で力を逃す
- 手首で音楽の「呼吸」を作る
細かくみれば他にもありますが、だいたいこんな感じ。
どの運動をする時も、手首は固めず、かといってダラダラに脱力せず、浮遊しているような自由な感覚を保ちます。
これは慣れるまでけっこう難しかったです...
ここからは、上記の手首の役割を、ひとつずつ解説していきますね。
手首で身体の重さを伝える
ロシアピアニズムでは、いわゆる「重力奏法」でピアノを弾きます。
指の力を使わず、身体の重さを指先に伝えて弾くということです。
つまり、エネルギーは手首を経由して鍵盤に伝わるということになります。
手首は、鍵盤に伝えるエネルギーの量を調節する大事な役目を持っているのです。
手首で力を逃す
近くにピアノがあったら、ちょっと実験してみましょう。
打鍵するとき、指を固めて鍵盤の底に食い込むように弾いてみてください。
耳に優しくない、固い音が出ますよね。
打鍵のとき、エネルギーをどこかに逃さないと、あり余ったエネルギーが鍵盤の底に注がれてしまって固い音が出ます。身体にもダメージが。
こうなると出てくる倍音の量も減り、豊かな響きを作れなくなってしまいます。
(倍音について知りたい方は、こちらの記事をご覧ください)
そのため、うまく力を逃してあげる必要があります。
一般的な奏法では、肘を使って、外側に力を逃すことが多いです。
一方で、ロシアの奏法では、主に手首を使って力を逃します。
前方向や、旋回しながらナナメ前方向へ力を逃すのが特徴です。
肘を使ってもいいのですが、こちらの方が動きはコンパクトで、演奏の流れを妨げにくいです。
ピアニストによっては、肉眼でわからないほど動きが小さかったりします。
力を逃す動きが分かりやすい動画があるので、次の章で紹介しますね。
手首で指の運動を助ける
一般的な奏法でも、手首が指の運動を助ける場面は多いです。
例えば、
連続したオクターブや和音、アルペジオ、グリッサンド、などなど。
ロシアピアニズムでは、ほかにも下記のような運動をします。
- 指にかかっている重さを手首で移動させることで、力をあまり使わずに細かい音型を弾く(ドミノ倒しのようなイメージ)
- 上腕と手首の連動により、ムチと同じ原理で加速度を利用して、最小限の力でフォルテを出す
- 手首を使って音色を変えるタッチをする(フェザータッチ、指を「置く」タッチなど)
上記はほんの一例ですが、これらの動きが分かりやすい動画も、次の章で紹介しますね。
手首で音楽の「呼吸」を作る
ロシアピアニズムでは、「ピアノで人の声のように歌う」ことを大切にします。
手首に、人が呼吸するような「自然な循環」の役目をさせることで、不思議なことに音楽が歌のようになっていきます。
「手首の呼吸」とは、下記のようなイメージです。
- 打鍵=息を吐くイメージ
- 離鍵=息を吸うイメージ
歌うようなフレージングを作るためには、離鍵がとても大切なのです。
アメリカのジュリアード音楽院にロシアピアニズムをもたらしたジョセフ・レヴィーンは、次のように言っています。
「歌い流れる旋律のパッセージでは、音が唐突に切られると非常に不愉快だ。
出典:ジョセフ・レヴィーン『ピアノ奏法の基礎』より
従って、歌い流れるパッセージの最後の音を弾くときは、生徒は、鍵盤の上で基本的な打鍵方法のさかさまをするとよい。
手首は、飛行機が空中に上がる時のようにしずかに上げて、ピアノの中でダンパーが不自然な衝撃なしに弦の上に下りるように、指先は鍵盤をしずかに上げながら離していく。
(中略)この終わりの音を正しく弾くことこそピアニストとしての奥義であって、君たちは偉大なピアニストになりたかったら、それこそ一生懸命にきれいに終わる手のとり方を練習しなければならない。」
ジョセフ・レヴィーン
手首の使い方がわかりやすい動画を紹介
ここからは、ロシアピアニズムの手首の使い方がよくわかる動画を紹介していきます。
「コーガ ピアノ道」さんの解説動画
まずは、手首の使い方の解説動画です。
こちらは、ピアニストの光賀晴紀さんがロシアピアニズムについて発信しているYouTubeチャンネル。
手首の使い方ひとつで、ショパンのエチュードを楽々弾かれていて、びっくり!
丁寧な話し方で、誠実な感じのお人柄もすてきです。
上の動画を観たときのメモを貼っておきますので、よければレジュメとしてご利用ください。
・手首が固まると指だけで弾くことになり、表現でもテクニック面でも悪い影響が生じる。指主導でショパンのエチュードを弾くとすると、難易度が跳ね上がる。
・手首の安定感を意識しすぎて、固まってしまうケースがある。固定と安定は違う。
・手首を緩やかに使って、鍵盤に触れるだけのようなイメージをもつと良い。
・指先に意識を持っていかないように、前腕の屈筋でコントロールしながら演奏することが大切。指先を意識してしまうと、手首や前腕が固まりがちで、演奏が難しくなる。
・指先だけで弾こうとすると、音が揃ってしまい、機械的になる。手首を使うと1音ずつニュアンスがつき、グラデーションのような響きを作れる。
・ゆっくり練習している時は、手首を上げたり下げたりしながら重心移動しているように見える。
・手首が自由なら、鍵盤の上を手が飛んでいるような感じで楽に弾ける。しかし、上方向への力が強すぎて手首から指を吊ったような状態になってしまうと、弱々しい音しか出てこないので注意。
ヴァレンティーナ・リシッツァさんの演奏動画
次は演奏動画です。
上の動画は、リシッツァさんのショパン。
この動画では、手首で音楽の呼吸をつくっているのがとても分かりやすいです。
手首をゆっくり持ち上げながら、歌唱性のあるフレージングをしていますよね。
また、手首を使って力を逃しているのも分かりやすいです。
前方向や旋回運動をしながら力を逃していますね。
ショパンが好きだったプレイエルのピアノの音も、味があって素敵です。
リーリャ・ジルベルシュタインさんの演奏動画
こちらの動画は、ジルベルシュタインさんの、ラフマニノフ「楽興の時」の演奏。
手首をつかって力を逃したり、フレージングを作っているのがすごく分かりやすいです。
下記の部分に注目して、見てみてください!
- ゆるやかな1、3、5曲目では、手首を使った旋回運動や呼吸
- 音数が多く激しい2、4、6曲目では、手首で身体の重さを移動させて細かい指の運動を助けていること、前方へ力を逃していること、ほとんど力を使わずフォルテを出していること
これだけ巨大な曲でも、美しさを保っているのがすごいですよね...!
手首の使い方を学んで、自分の演奏に活かそう!
手首の重要性について見てきましたが、いかがでしたか?
ロシアピアニズムにおける手首の役割をおさらいしておきましょう。
- 手首で身体の重さを伝える
- 手首で指の運動を助ける
- 手首で力を逃す
- 手首で音楽の「呼吸」を作る
ロシアピアニズムを学んでいない方でも、手首を柔軟に使えるようになるのは、間違いなくメリットです!
これからはぜひ手首の使い方にも注目して、ご自身の演奏に取り入れてみてくださいね。
下記のページでは、当ブログのロシアピアニズムに関する記事をまとめています。
よろしければ、どうぞ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
それでは、今日もよいピアノライフを!