ロシアピアニズムにはどんな流派があって、どんな特徴があるんだろう?
もっとロシアピアニズムのことを知りたい。
こんな疑問に答えます。
こんにちは!ゆきおです。
今回は、ロシアピアニズムの流派について解説してみます。
これは、演奏に役立つかといわれると、うーん(笑)
でも流派のことを知ったら、気になるピアニストの演奏を聴いてみようかなーと思ったりするかもですよね。
そこから学びを得られれば、きっとご自身の演奏にもつながりますよ!
大学で世界史を専攻していたこともあり、歴史とかルーツを知るのはけっこう好きなんです。
しかも、大好きなピアノの世界なので、楽しさ倍増(笑)
ちょっとマニアックかもしれませんが、気になる方はぜひご覧ください。
なお、本記事の参考としたのは、ほぼ下記の本にある情報です。
- 参考書籍:焦元溥『ピアニストが語る!』シリーズ(1〜5巻)
それでは、見ていきましょう!
ロシアピアニズムには、大きく4つの流派がある
モスクワ音楽院で発展したロシアピアニズムには、大きく4つの流派があります。
下記のとおりです。
- ネイガウス流派
- イグムノフ流派
- ゴリデンヴェイゼル流派
- フェインベルク流派
上記のものは、モスクワ音楽院における流派です。
他方、サンクトペテルブルク音楽院のニコラーエフ流派も有名だそう。
では、なぜいくつもの流派が生まれたのでしょうか?
できるだけ簡単に、解説していきます。
ロシアにピアノが広まったのは遅かった
流派が生まれた理由は、ロシアにおけるピアノの歴史に関係があります。
ロシアにおけるピアノの歴史は、西ヨーロッパのものと比べるとかなり浅いです。
ヨーロッパからロシアにピアノが伝えられ、広まっていったのは19世紀といわれています。
そんな19世紀のロシアで、とんでもない大ピアニストが生まれました。
彼の名は、アントン・ルービンシュタイン。
彼は、サンクトペテルブルグ音楽院を創設し、そこがロシアにおける音楽の中心となりました。
のちに、彼の弟のニコライ・ルービンシュタインが、分校としてモスクワ音楽院を創設します。
それらの音楽院を中心に、ロシアの教育システムが発展していくのです。
ショパンとリストの系譜
やがて、ロシアの教育者たちは、発展途中のロシアピアノ界にショパンとリストの弟子たちを招きました。
アントン・ルービンシュタイン自身も、ショパンやリストと面識があったそうです。
ショパンとリストは、それぞれにピアノの新しい奏法を編み出した人でした。
ショパンとリストは、作曲家・演奏家であっただけでなく、弟子への教え方もとても上手かったのです。
彼らの教えがロシアに伝えられ、それを受け継いで、何人もの大ピアニストが生まれていくことになります。
大ピアニストたちが流派を形成していった
そして、音楽家だけでなく教師にもなったピアニストのもとに生徒が集まり、流派が作られていきました。
ロシアの中でいくつもピアノの流派が生まれたのは、「ピアノがロシアにもたらされたのは、わりと近年」という歴史に関係があったんですね。
次は、各流派について解説していきます。
各流派の特徴と、代表的なピアニスト
ここからは、各流派について、特徴と代表的なピアニストを紹介します。
先にお伝えしておきたいのですが、流派があるといっても、その演奏は人によって異なります。
ロシアの教育では、一人ひとりが個性を持っていることを大切にしてきたそう。
複数の流派から影響を受けている人も多いです。
また、流派の流れにはいるけれど、テクニック上の指導は受けていない場合もあります。
ひとつの流派の、何人かのピアニストの録音を比較してみるのも面白そうですね。
きっと、個性豊かなのがわかりますよ。
ネイガウス流派
ゲンリッヒ・ネイガウスから始まる、ショパンからの影響が大きい流派です。
ネイガウスは、非常にロマンティックで情熱的、まさに芸術家というような人だったそう。
「練習するのは情緒豊かな演奏をするためだ。感情の出し惜しみをしてはいけない!」とよく言っていたことを生徒さんが回想されています。
レッスンは基本的に公開レッスンで、他の流派の学生も見にきていたのだとか。
芸術的イメージ、文学とのつながり、響きの色彩感といったものを特に重視していたそうです。
- ネイガウスの指導を受けた著名なピアニスト
・エミール・ギレリス
・スヴャトスラフ・リヒテル
・スタニスラフ・ネイガウス(スタニスラフ・ブーニンの父)
・ヤコフ・ザーク
・レフ・ナウモフ など
- ネイガウス流派の流れにいる現代の著名なピアニスト
・エリソ・ヴィルサラーゼ
・セルゲイ・ババヤン
・ダニール・トリフォノフ
・アンドレイ・ガブリーロフ
・ディーナ・ヨッフェ
・アレクサンダー・コブリン
・コンスタンティン・リフシッツ
・ヴァレリー・アファナシエフ など
イグムノフ流派
コンスタンティン・イグムノフから始まる流派。
イグムノフは、リストの弟子であるジロティから伝統を受け継いだそう。
彼は、優しく美しい音色と、人が歌っているかのようなレガートを重視していました。
「優しく撫でるように弾きなさい、決して攻撃するように弾いてはいけません」と、いつも言っていたそうです。
かつてのロシアでは、「音を聴けば、イグムノフ流派の技巧であることはすぐ分かる」といわれていたそう。
- イグムノフの指導を受けた著名なピアニスト
・レフ・オボーリン
・ヤコフ・フリエール
・マリア・グリンベルク など
- イグムノフ流派の流れにいる現代の著名なピアニスト
・ミハイル・プレトニョフ
・ベラ・ダヴィドヴィチ
・ウラディーミル・アシュケナージ
・エリザベート・レオンスカヤ など
ゴリデンヴェイゼル流派
アレクサンドル・ゴリデンヴェイゼルから始まる流派です。
彼もイグムノフと同じく、リストの弟子であるジロティから伝統を受け継いだそう。
「作品の解釈を重視する学究肌のピアニスト」で、生徒には厳格な課題と訓練を与えていたらしいです。
例えば、バッハの各声部を完璧に描き出すことを要求しただけでなく、自在に移調して弾けるよう要求したのだとか、、
- ゴリデンヴェイゼルの指導を受けた著名なピアニスト
・サムイル・フェインベルク
・グレゴリー・ギンズブルク
・ニコライ・カプースチン
・ラザール・ベルマン
・ドミトリー・バシュキーロフ
・タチアナ・ニコラーエワ など
- ゴリデンヴェイゼル流派の流れにいる現代の著名なピアニスト
・ダン・タイ・ソン
・アルカディ・ヴォロドス
・ニコライ・ルガンスキー など
フェインベルク流派
ゴリデンヴェイゼルの弟子だったサムイル・フェインベルグ。
彼は信じられないほど斬新な解釈と視野を持った、次元の違うピアニストだったそうです。
もはや流派を形成したに等しいと言われています。
ゴリデンヴェイゼルのように解釈を重視しながらも、とてもロマンティックで自由な演奏スタイル。
残念ながら、著名になる弟子にあまり恵まれなかったそうです。
- フェインベルクの指導を受けた著名なピアニスト
・ヴィクトル・メルジャーノフ など
ニコラーエフ流派
レオニード・ニコラーエフの流派です。
モスクワ音楽院ではなく、サンクトペテルブルグ音楽院で指導しました。
ニコラーエフは、レシェティツキの孫弟子にあたるようです。
ロシアピアニズム最初期の、ルービンシュタイン、レシェティツキ、エシポワらが求めた響きと音色の影響を受けたのだと思われます。
彼の有名な弟子には、大作曲家のショスタコーヴィチや、飛び抜けて個性的なソフロニツキーとユーディナがいます。
- ニコラーエフの指導を受けた著名なピアニスト
・ドミトリー・ショスタコーヴィチ
・ウラディーミル・ソフロニツキー
・マリア・ユーディナ など
現代では、流派の明確な違いは薄れている
いかがでしたか?
ちょっとマニアックでしたね(笑)
実は、各流派の創始者たちは、明確な区別を意識していなかったようなんです。
「あちらの先生の教えも、ぜひ参考にしなさい」という感じだったよう。
そして、現代では流派は混ざりあってほぼ消滅したともいわれています。
お互いの良いところを取り入れながら発展してきたのですから、当然かもしれませんね。
下記の記事では、さまざまな流派のピアニストの音源を紹介しています。
よろしければご覧になってくださいね。
最後までご覧いただきありがとうございました。
それでは、今日も楽しいピアノライフを!