ロシアピアニズムは多彩な音色を出せるっていうけれど、音色を聴く感覚がいまいち分からないなあ。
ピアノの音色の変化について、詳しく知りたい。
こんな疑問に答えます。
こんにちは!ゆきおです。
ピアノ音楽の世界に触れていると、たびたび「音色の変化」という言葉を耳にしますよね。
特にロシアピアニズムでは、多彩な音色を使って音楽を作っていくことを大切にします。
しかし、音色の変化の面白さを感じられる方がいる一方で、「音色の変化なんて感じとれない!」という方もたくさんいらっしゃると思います。
もし今の時点で感じとれなくても、聴き方をちょっと変えてみるだけで、どういうことか簡単に分かるかもしれません。
本記事では、そんな「ピアノの音色の変化とは何か」について書いていきます。
音色の変化を感じられるようになると、音楽を聴くのがもっと楽しくなりますよ!(もちろん演奏するのも!)
ピアノの音色が変わるメカニズムや感じ方について、ピアニストやピアノ技術者さんの意見を引用しながら解説していきますね。
音色の変化を感じ取れるかは、聴き方しだい
いきなりですが、ピアノの音色の変化が感じ取れるかは、聴き手しだいです。
ピアノにおける音色の変化とは、とても感覚的なものなのです。
理由を説明していきますね。
ピアノの「音色」とは
ピアノから出る音は、あくまでピアノの音です。
打弦楽器という性質上、弦楽器や管楽器のような音が出せないのは事実ですよね。
ピアノで音色を変えるために何ができるかというと、それは「音の質感を変える」こと。
難しくいうと、「基音と倍音のバランスの変化」です。
基音と倍音については、こちらの記事で説明しています。
音に含まれる成分が変わることによって、音色が変わったように感じられる、ということですね。
例えば、音量も高さも同じ「ド」を2つ聴いて違った感じに聴こえるとしたら、音色が変化しているといえます。
音色が変化するメカニズム
音色が変化するメカニズムは、ピアノの構造的にも説明可能です。
下の動画では、調律師さんが「音色が変わる仕組み」について詳しく解説されています。
動画の要点は、下記のとおりです。
- 基音と倍音のバランスの変化により、音色が変化したように感じる。
- 「ハンマーが弦を叩く位置」や「ハンマーの弾み方」が変わった時に、倍音の出方が変化する=音色が変わる。
- ハンマーが弦を叩く位置は、タッチによって微妙に変えることができる。理由は、ハンマーがついている木製の棒の「しなり方」が、加速度によって変わるため。
タッチで音色が変わるのは体感していましたが、ハンマーが弦を叩く位置が微妙にずれるなんて、目からウロコでした!
ロシアピアニズムは、手首の使い方やタッチのバリエーションがとても豊富なので、いろいろな音色が出せるのも納得です。
音色の感じ方の例
あくまで個人的な感覚ですが、僕が聴いたことのある音色をいくつか言葉にしてみます。
- 中・低音域で豊かに歌う、チェロを思わせる音色
- トランペットのような、直線的で光輝く音色
- オルゴールを思わせる、優しくて懐かしいような音色
- 東洋の寺院で、小さい鈴がチリンと鳴っているような音色
- 空気を振動させる、巨大な鐘の音のような音色
恐らく、同じ音色を複数人が聴いたとき、感じ方はバラバラになるでしょう。
でも、そのように聴く側に自由な想像の余地があるのも、ピアノ音楽の面白いところですよね。
ここで、音色の違いがイメージしやすいかな、と思う作品を紹介します。
グリーグの『スロッテルOp.72』より、8曲目の「粉挽きの少年による結婚行進曲 」です。
いかがでしたか?
フルで掲載できなくて申し訳ないのですが...
僕は下記のように感じました。
- やや高めの中音域は、ピンと張った透明感のあるヴァイオリンのような音色。
- 低めの中音域は、やや柔らかくてヴィオラのような音色。
- 低音域は、柔らかいけれど安定感のある、ゆったりした音色。行進の歩みですね。
- 高音域では、小さい鈴のような音色がシャーン。
ちなみに、長調なのに何だか寂しく聴こえるのは、「粉挽きの少年」が元カノの結婚行進を見ながらこの曲を書いたからだそう。
もともとは、ハルダンゲル・フィドルというノルウェーの民俗ヴァイオリンで演奏される曲で、グリーグがピアノ用に編曲したものです。
『スロッテル』はちょっとマイナーですが、グリーグの創作の中でも傑作といわれています。
民俗色が強いので好みは分かれてしまうかもしれませんが、僕にとっては「何が飛び出すかワクワク」する大好きな作品集です(笑)
カラフルな色調を感じる人もいる
人によっては「共感覚」というものを持っている人もいるそうです。
共感覚とは、五感(視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚)のうち複数が組み合わさって感じる感覚のこと。
例えば、音を聴いたとき(聴覚)に、音だけでなく色調(視覚)を感じる、といった感じ。
スクリャービンやメシアン、リムスキー=コルサコフといった作曲家は、共感覚を持っていたと言われていますね。
僕には共感覚はありませんので、「音、響きの濃度(濃淡)を感じる」というのがしっくりきます。
実は写真芸術も大好きなのですが、優れたモノクローム写真からは、不思議なことにカラー写真のような色彩感を感じられます。
有名どころだと、アンセル・アダムスの風景写真でしょうか。
『The Tetons and the Snake River』
白と黒の間に広がる、無限のグレー。
ピアノの音色からも、モノクローム写真のような色彩感を感じています。
音色の変化をつくる方法
ここからは、音色の変化をつくる方法について書いていきますね。
まず、タッチの「速さ×深さ」が音色に大きく作用すると言われます。
- 速い×深い
- 速い×浅い
- 遅い×深い
- 遅い×浅い
これだけでも、音の出し方にはかなりのバリエーションが生まれますが、さらに下記のような要素も加わります。
- 指と鍵盤の接点を変えることによるハンマーの「しなり」の変化(先ほどの動画の内容)
- ダンパーペダルの有無。有りの場合は深さ・浅さ
- シフトペダル(ウナコルダ)の有無。有りの場合は深さ・浅さ
- 鍵盤からの指の上げ方(=ダンパーの下ろし方)
- 下部雑音(鍵盤が底に当たる衝撃音)、上部雑音(指や爪が鍵盤に当たる衝撃音)の入り方
もっと要素はあると思いますが、パッと思いついたものは上記の感じ。
たとえ1音を出す場合でも、これら全ての要素が関わってくるので、無限とも思えるほどの組み合わせが生まれますね。
ちなみに、シフトペダル(ウナコルダ)は、オン・オフだけで考えられがちですが、浅く踏むことで音色の出方が変わります。
ピアノによっては、完全に踏んだ時より、ハーフペダルの方がソフトな響きになることも。
先生からは「最低でも3段階くらいは踏み替えられるようにしてね。」と言われているので、意識しながら弾いています。
音色の変化といえば、ロシア出身のピアニストであるイリーナ・メジューエワさんは下記のように語られています。
(ラヴェル『夜のガスパール』の第2曲「絞首台」について)
出典:イリーナ・メジューエワ『ピアノの名曲』
「4ページしかない短い曲ですが、これが(夜のガスパールの中で)1番難しい曲だという人もいます。
なぜかというと、音に対する強烈なコンセントレーション(集中力)が必要だから。
ある音楽学者の説によると、この曲を弾くためには27種類の音色が必要だそうです。
あるいは26種類とか。
どうやって数えたのか分かりませんが…(笑)」
イリーナ・メジューエワ
「27種類も⁈」と思ってましたが、無限の組み合わせの中から27種類なら、何とかなりそうな気がしてきちゃいますね(笑)
参考までに音源も載せておきます。
音色の変化を感じとって、もっと音楽を楽しみましょう!
ピアノの音色の変化について解説してきましたが、いかがでしたか?
簡単におさらいしておきます。
- 基音と倍音のバランスの変化により音の質感が変わる。そのため、音色が変化したように感じる。
- ピアノは、タッチによってハンマーの動きを操作し、音色を変えられる構造になっている。
- 音色を変化させる要素はたくさんあり、要素の組み合わせ方は無限ともいえる。
音色の変化を感じ取れるようになると、音楽がもっと楽しくなります。
いろいろなタッチを駆使しているピアニストの演奏を聴くのは、なおさら楽しいです!
ぜひ、音色も気にしながら音楽を聴いてみてくださいね。
下記のページでは、当ブログのロシアピアニズムに関する記事をまとめています。
よろしければ、どうぞ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
それでは、今日もよいピアノライフを!