ロシアピアニズム、ロシア奏法って言葉をよく聞くようになったけど、
日本の一般的な奏法と何が違うのかな?
違いがわかる演奏も聴いてみたいなあ。
こんな疑問に答えます。
こんにちは、ゆきおです。
ロシアピアニズム、ロシア奏法という言葉をよく耳にするようになりましたね。
コンサートのチラシなどで「ロシアピアニズムの響き」みたいなキャッチコピーをしばしば見かけます。
ピアノ友達の間でもロシアピアニズムの話題がよく出るようになりました。
実は僕自身、2020年にロシアピアニズムを知り、夢中になっています。
きっかけは、たまたまロシアピアニズムのピアニストのリサイタルに行ったこと。
「ピアノってこんな音だっけ⁈」と、初めて聴く異次元の響きに、ひっくり返るような衝撃を受けました。
その後、寝ても覚めても、ロシアピアニズムのことばかり考える状態に...(笑)
「少しでもあんな響きに近づきたい!」と、1年半前からはロシアピアニズムの教室に通って指導を受けています。
今回は、ロシアピアニズムとはどんなものなのか、解説していきますね。
ロシアピアニズムとは?特徴を解説【日本の奏法とはかなり違います】
ロシアピアニズムの大きな特徴は、「歌うようなレガート」と、「豊かな響き」です。
また、合理的に身体を使うため疲れにくく、故障もしにくい奏法です。
「歌うようなレガート」と「豊かな響き」が特徴というのは、ロシアのピアニスト、エリソ・ヴィルサラーゼさんがインタビューで話されていたことです。
20名ほどではありますが、実際にコンサートを聴きにいき、僕もそれをハッキリ感じました。
「ロシア奏法」とか「ロシアンメソッド」という言葉も耳にしますが、
- 「ロシア奏法」
→ロシアピアニズムにおける、メカニック的な意味での奏法をひとまとめにした言葉(実際は、ロシアの中でも奏法は多様なので、まとめるのは適切ではない) - 「ロシアンメソッド」
→ロシアピアニズムを身につけるために、ロシアで発展した教育メソッド
と考えれば分かりやすい思います。
「ピアニズム」という言葉には、「ピアノを声楽のように歌わせる」といったような、音楽に対する考え方・姿勢も含まれています。
ロシアピアニズムの奏法の特徴
ロシアピアニズムの奏法は、ここ100年ほどで急速に発展してきたものです。
現代の鍵盤が重くて巨大なピアノの性能を最大限に発揮するため、発展してきた奏法とも言えます。
古い歴史をもつヨーロッパの鍵盤楽器の伝統から生まれた奏法とは、身体の使い方がかなり違います。
ちなみに、日本で最も広く教えられてきたのはドイツの奏法です。
【カルチャーショック】ロシアピアニズムとドイツピアニズムの違い
僕がロシアピアニズムを知るまでに習っていた奏法は、ドイツのものです。
そのため、ロシアピアニズムの世界に足を踏み入れてから、かなりカルチャーショックがありました。
その一部を紹介しますね。
- 鍵盤に対し、手を斜めに配置する
→親指は鍵盤の奥側、小指は鍵盤の外側。鍵盤に向かって両手が逆ハの字の形になります。 - 指の関節は脱力し、前腕と手のひらの筋肉を使って、鍵盤にかかる身体の重さをコントロールしながら強弱をつける
- タッチの変化で倍音を意識的に操り、それを和声進行と組み合わせて色彩感を作っていく
- 曲線を作るように空中で響きをつなげ、声楽のようなレガートを作る
- 鍵盤の浮力(押してから勝手に上がってくる力)をコントロールしながら離鍵することで、響きを操作する
僕は最初「いや、どうやって弾くんですかそれ」って思いました。
意味わからん、と(笑)
でも続けているうちに、とても合理的な奏法なのが分かってきましたよ!
明らかに前より弾くのが楽になってきましたし、手の痛みも無くなり、響きをほめてもらえることも格段に増えました。
ピアノの倍音って?超簡単に説明します。
先ほど「倍音」という言葉を使いました。
ここでいう倍音とは、ピアノでひとつの音を鳴らしたときにそれに共鳴して鳴る音のことです。
下手な図で心苦しいですが、うまく説明できないのでこちらをご覧ください。
笑わないでくださいね。
「ド」を鳴らした時に、内部の開放弦などが振動して、「ド」以外の響きが生まれます。
図でいう「ポワーン」の部分。
これが倍音です。
ここでいう「ド」は、いわゆる「基音」。
繰り返しになりますが、最初に「基音」が発生させた音の波によって、別の部分が振動して「倍音」が生まれます。
倍音量が多いほど、耳に心地よく、遠くまで伸びていく音になります。
倍音は、普段から聴く習慣がないと、意識の外にあるのでなかなか認識しにくいです。
しかし意識的に聴こうとすれば、比較的短期間で聴き取れるようになると思います。
ダンパーペダルを踏むと分かりやすいので試してみてください。
下記の記事では、倍音についてより詳しく解説しています。
ロシアピアニズムの流派と、流派をこえて共通する特徴
ロシアピアニズムは、日本の書道や華道のようにいくつか流派があり、音楽づくりの姿勢が異なります。
例えば、音色の色彩感を重視する流派、論理的な探求を重視する流派など。
しかし、音楽づくりの考え方は違っても、共通しているのは「歌うようなレガート」と「豊かな響き」。
次章では、ぜひ演奏を聴いていただきたいピアニストを紹介していきますね。
【厳選4名】ロシアピアニズムの演奏を聴いてみよう!
ロシアピアニズムを代表する大ピアニストのうち、ぜひ聴いてほしい4名を紹介します。
説明には、かなり主観が入ってますのでご了承ください。
興味がない方は読み飛ばしてください(笑)
なお、ロシアピアニズムは、弱音でも強音でも基本的に打鍵スピードが速いです。
それにより倍音量が多くなって豊かな響きになるのですが、録音によってはキンキンした音に聴こえることもあります。
生演奏でロシアピアニズムの響きを体験すれば、そういった録音を聴いても耳が補正してくれるようになりますよ。
それでは、見ていきましょう!
ウラディミール・ホロヴィッツ/Vladimir Horowitz
20世紀を代表する巨匠ピアニスト。
飛び上がってしまうような轟音も出しますが、特筆すべきは弱音の繊細な美しさと色彩感、夢見心地になるような歌唱性です。
彼と親しかったピアニスト、ルース・スレンチェンスカは、
「ホロヴィッツは、レコードで声楽を聴いて、それをピアノで再現する練習をしていました。
そして、ピアノ曲でも、全ての声部で声楽のような歌わせ方を実現させようとし、日々練習に励んでいました。」
とインタビューで話されていました。
それほどまでに、「ピアノで歌う」ことを極めようとしていたのですね。
指の関節に頼らず、指を伸ばしたままのフォームで演奏することができるのは、身体の重みを筋肉でコントロールしながら鍵盤に伝えているから。
録音はたくさんありますが、僕は晩年の繊細極まる演奏が好きです。
ラドゥ・ルプー/Radu Lupu
その風貌や思考から、仙人のようだ、といわれることもあったピアニスト。
ゲンリッヒ・ネイガウスに師事していました。
録音ぎらいだったそうで、最後のCDリリースは1900年代。
数少ない昔の録音を聴いても、際立って個性的な音色なのがすぐにわかります。
神秘的なのに温かみがある弱音、
巨大なのに美しさを全く損なわない強音、
人の温もりを感じる自然な呼吸の音楽。
圧倒的すぎてもはや笑ってしまいました。
レパートリーはドイツ系の作品が多いです(ロシアピアニズムでドイツ作品を弾く、ということです)。
シューベルト素晴らしすぎます。
彼を知った頃にはすでに引退されていました。
コンサート行きたかった...
リサイタルではドビュッシーやバルトークも演奏されていたようです。
ミハイル・プレトニョフ/Mikhail Pletnev
指揮者、ピアニストとして活躍されています。
CDやYouTubeをたくさん聴いて、そのたびに衝撃を受けてきましたが、2023年2月に生演奏を聴きにいくことができました。
ひとつの楽器から出ているとは思えない、極限までに繊細かつ多彩すぎる響きに圧倒されます。
楽曲解釈も極めて個性的で、平常心で聴くことができません。
ゆっくりと指示されているはずなのにめちゃくちゃ速かったり、
重々しい強音のはずがコメディっぽい弱音だったり、
強調する声部が独特だったり...
しかし、それによって楽曲の構造がよく伝わってきて、やっぱり熟考したうえでの解釈なんだなあと思いました。
あとバスが凄かった!
バスの響きを長く持続させて、上声部と共鳴させて響きをつくっているのがわかります。
どうしてあんなに長く鳴り続ける音が出せるのか、謎です。
動画や録音でも彼の凄さは十分伝わってくるので、ぜひ聴いてみてください!
ダン・タイ・ソン/Dang Thai Son
僕がロシアピアニズムを知るきっかけになったピアニストです。
大ファンです。イケオジすぎ。
初めて彼の演奏を聴いてから3年がたちますが、あの時の響きや演奏中の動作までもが、鮮明に記憶に焼き付いています。
優しく、温かく、自然で、語りかけてくれているような音楽です。
ただ弾くだけなら比較的簡単なはずの小品を、想像もつかないほど魅力的に弾かれていて、僕の中にあったピアニストのイメージがひっくり返されました。
これこそ音楽だ!と。
ロシアピアニズムを学び始めてしばらく経ってから、再びコンサートに行くことができました。
本当に「人を幸せな気持ちにさせてくれる演奏」をされる方だなあと、ますますファンになりました。
録音をいろいろ聴いてみて思うのは、録音だと彼の素晴らしさを存分に味わえない気がします。
ライブ演奏だとコミュニケーションが生まれるからでしょうか?
早くまたコンサートに行きたいです。
以上、ぜひ聴いてほしいピアニストの紹介でした。
主観バリバリで失礼しました。
他にも大好きなピアニストがいすぎて、ここでは紹介しきれないので、別の記事でまた紹介させてください。
ようこそ、すばらしいロシアピアニズムの世界へ!
ロシアピアニズムとは、ロシアで発展した音楽づくりの考え方や奏法のことであり、日本で普及しているピアニズムとはかなり違うことをお伝えしてきました。
果てしなく深い世界ですが、入り口は広いです。
いますぐ、録音や動画で聴いてみればいいのですから!
僕はロシアピアニズムに出会ったことで、音楽の世界が大きく広がりましたし、毎日がきらきらと輝きはじめました。
身につけるには膨大な時間と努力が必要ですが、音楽を聴いてその素晴らしさを味わうのはとても簡単ですよ。
下記のページでは、当ブログのロシアピアニズムに関する記事をまとめています。
よろしければ、どうぞ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
それでは、今日も良いピアノライフを!