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【ロシアピアニズム】奏法を変えるメリット・デメリットを考えてみる

ロシアピアニズムを習得するメリットとデメリットってなんだろう?
奏法を変えるか悩んでるから、判断材料がほしい。



こんな疑問に答えます。



こんにちは!ゆきおです。
今回はロシアピアニズムを習得するうえでのメリット・デメリットについて考えてみます。

ロシアピアニズムを学びたいと思い始めたころ、こういった情報を調べてもあまり見つけることができず、もどかしかった経験があります。


新しいことに踏み出すときは、けっこう不安ですし、勇気がいりますよね。

学び始めて3年が経ったので、分かったことや今の時点で感じていることを書いてみます。
少しでも、悩まれている方のお役に立てれば幸いです。

僕はアマチュアなので、あくまで参考程度にどうぞ!

ロシアピアニズムを身につけるメリット


まずはメリットから見ていきたいと思います。
メリットについての情報はわりと簡単に見つかりますので、だいたい把握している方もいるかもしれません。

下記のとおりです。

  • 美しい響きを出せるようになる

  • 美しいレガートで歌えるようになる

  • 強弱も音色も、自由自在に表現できるようになる

  • 自然な身体の使い方ができるようになる

  • 演奏中の「自由」を得られる


他にもメリットはあると思いますが、主要なものはこんな感じ。

もちろん、僕自身が全てできるようになったわけではないですよ(笑)
3年ごときじゃ無理な話ですので、念のため。

それでは、ひとつずつ見ていきましょう。

美しい響きを出せるようになる


ロシアピアニズムの最も素晴らしい点のひとつがこれ。
倍音を豊かに出すタッチにより、美しい響きを作り出すことができます。

  • 響きを混ぜて、音楽の色彩感を自在に操る
  • 複数の旋律を、異なる音色で立体的に表現する
  • どこから鳴っているかわからないような音を出す(空から降ってくるような音、はるか遠くから聴こえるような音など)


といった、夢みたいなこともできるようになります。

美しいレガートで歌えるようになる


これは、ロシアピアニズムの最も素晴らしい点、その2。

ロシアピアニズムでは声楽の発想でレガートを作ります。
ピアノの発音の特性にあわせ、響きを利用して美しい曲線的なレガートを作ることができるようになります。

強弱も音色も、自由自在に表現できるようになる


指の動きだけでなく、より大きな筋肉や身体の重さに助けてもらうため、シビアな音量コントロールの難易度が下がります
特に弱音域においては効果大。

びっくりしたことですが、ほとんど力を使わないで最強音を引き出す身体の使い方もあります。
ムチがしなるのと同じ原理で、加速度を利用するのです。
これは、指関節の脱力ができていないと音が割れてしまいます。

また、筋肉が付かないとできないのですが、多様なタッチによりさまざまな表情の音が出せるようになります。

無理のない身体の使い方ができるようになる


身体の構造的に無理のない身体の使い方をするので、疲れにくく、腱鞘炎などの怪我にもなりにくいです。
ロマン派以降の大曲でも、身体の重さや大きな筋肉(背中や胸など)に助けてもらうので、技巧上の難易度は下がるとのこと。

他にも、

  • 歳をとっても衰えにくい
  • 何歳からでもスムーズに上達しやすい
  • 弾けない期間があっても衰えにくい

などのメリットがあります。

音楽の色彩感に敏感になる


響きに耳を研ぎ澄まして練習するので、人の演奏を聴いたときの楽しみも増します
すごいと思っていたピアニストが、思ってた10倍すごいというようなことに気付けたりして、とても楽しいです。

演奏中の「自由」を得られる


響きを重視のロシアピアニズムでは、出てきた音に柔軟に対応することが大切です。
そのため、「練習どおりに弾こう」というような気持ちから解放されます

身体的にも、自然な身体の使い方が身につけば、技巧に気を取られず音に集中して演奏できます
僕自身はまだまだ未熟ですが、弾くのは精神的にも身体的にもどんどん楽になっています。

以上、メリットを見てきました。
良いことだらけですね!

ロシアピアニズムを身につけるデメリット1(習得する上でのデメリット)


次に、デメリットを考えてみましょう。

「デメリットなんて、そんなにあるかなあ」と思いながら書き始めたら、意外にもたくさん出てきました(笑)

「習得する上のデメリット」と、
「ある程度習得してからも存在するデメリット」
の2部に分けました。


ここでは習得する上でのデメリットを見てみます。

下記のとおり。

  • とにかく時間がかかるので忍耐力が必要
  • 自分の価値観のリセットが必要
  • 良い耳がないとムリ
  • 受け身だとムリ
  • 自分で歌えないとピアノでも歌えない
  • 前から習っている先生への説明が必要


ひとつずつ見ていきます。

とにかく時間がかかるので忍耐力が必要


これが一番キツいのではないでしょうか。

これまでバリバリ弾いてたような方でも、シンプルな基礎練に時間を費やすことになります
ロシアの子供たちがやっているような練習をするということ。
しかも、ある程度時間をかけないと筋肉はつかない...

長い期間しっかり頑張ってきた人ほど、奏法を変えるのは苦労すると思います。


逆に、ピアノ歴が短かったり、ブランクが長かったり、あまり真剣にやってこなかった人の方が楽かもしれません。
精神的にも、身体的にも。
僕は真剣に学び始めてからの期間が短いし、プライドも無いので、楽なほうだったと思います。

これまで通り演奏したいと思ったら昔の奏法に戻らざるを得ないので、しばらくはその我慢も必要かと思います。
コンサートやコンクールで演奏することに主眼を置いている方は、ちょっとツラいしれません...

僕も、昔からの教室での本番や、ピアノ仲間との演奏会・弾き合い会はお休みし、まる1年ひたすら基礎をやりました
強制されたわけではなく、自主的なものですが(笑)

よほど強いモチベーション、響きへの強い憧れや理想みたいなものがないと苦しいです。

自分の価値観のリセットが必要


素直さが必要です。
これはロシアピアニズムに限らず、ですね(笑)

身体の使い方が全然違うので、
「そんなんで弾けるはずない」
「できることだけ取り入れればいいや」
みたいな気持ちが生まれると、大きなリターンは期待できないかもしれません。

受け入れがたい...と感じることもありましたが、そういう時は内面から変わろうと心がけていました。



「ロシアピアニズムを習いたいと思って教室に行ったのに、ドイツっぽい練習を要求される…」というケースもあるかもしれません。
僕の場合はそうでした。
それは、先生が各奏法のいいところを組み合わせて、練習方法を提案してくれているから。

価値観をリセットし、素直な気持ちで指導を受ける必要があります。

良い耳がないとムリ


耳ありき、です。
出ている音の成分が聴こえないと、正しい方向に進んでいるか分かりません。

しかし、聴き方の訓練をすれば聴こえるようになるので、心配ありません。


理想の響きをイメージできている方は、たぶん既によく聴こえています。
聴こえているか分からないとしても、それは気づいていないだけかと。

受け身だとムリ


これもロシアピアニズムに限らず、ですね(笑)

レッスン以外の時間も、自分からどんどん学んでいかないと、上達がゆっくりになって苦しいです。
教えてもらえるだろう、と思っていると、おそらく延々と長引きます。

僕は、自分からどんどん学ばなかったせいでインベンション1曲に半年かかり、頭おかしくなりそうだった思い出があります。

自分で歌えないとピアノでも歌えない 


奏法を変えようと、音楽的センスがなければ、ピアノで歌えないのです、、
しかし、センスは磨けるものでもあります。

僕が通った教室では、ソルフェージュ(声楽的に視唱する訓練)が行われていますが、とても役に立ったと感じています。
声楽を分析しながら聴き、自分でも録音しながら歌ってみるなどすれば、独学もできるかと思います。

ピアニスト、ダン・タイ・ソンさんの言葉を引用します。

「ショパンが言ったように、演奏者自身が歌えなければいけません。
プロの歌手のように歌う必要はありませんが、旋律のフレージングや息継ぎを経験すべきです。
(中略)まず声楽をよく理解し、それをピアノ演奏にどのように生かしたらよいかを考えるといいでしょう。」

ダン・タイ・ソン 

出典:焦元溥『ピアニストが語る!第三巻』より

前から習っている先生への説明が必要


これは、前から習っている先生がいる場合です。

僕は子供の頃からの大好きな先生に習っていたので、けっこう心の負担でした。
奏法を変えたいなんて言ったら、控えめに言ってもいい気持ちはしないはず。

僕の場合は、2つの教室に並行して通うことにしました。


先にロシアピアニズムの先生に並行しても良いか確認を取りました。

その後、昔からの先生に「ダン・タイ・ソンさんの響きが忘れられなくて、どうしても近づきたいのでロシアピアニズムを習いたいんです。でも、できれば音楽的な指導を引き続きお願いできませんか。」と伝えました。
すると「すごくいいと思う、やっぱりロシアは凄いからね!習ってきたこと私にも教えてほしい!」と快く受け入れていただけました。
本当にありがたかった...

黙っていても間違いなくバレていたと思うので、正直に相談して良かったです。

ロシアピアニズムを身につけるデメリット2(ある程度習得してからも存在するデメリット)


次に、ある程度習得してからも存在するデメリットを考えてみましょう。

下記のとおり。

  • 「良い響きが出せる=良い演奏」ではない
  • 「スロー」な練習が必要
  • ピアノの状態によっては無力になる
  • 日本の多くの専門家にはとっては受け入れにくい
  • 視野が狭くならないよう注意が必要


ひとつずつ見ていきます。

「良い響きが出せる=良い演奏」ではない 


身をもって苦しんでいます。

奏法を変えれば良い演奏ができるようになる、と単純化できないのがツラいところです。



確かに「音」や「響き」はとても大切。
音が綺麗じゃないと、台無しです。

一方で、音楽の大事な要素は、他にもたくさんありますよね。

たとえば、

  • 自然な音楽語法
  • 音楽を生きたものにするリズム感、テンポ感
  • 自然な呼吸
  • 全体を構築するバランス感覚


などなど。

それらが良い水準にあって、そこに豊かな音色や響きが加わると、本当に素晴らしい世界が現れる。
しかし、たとえ音が良くても、他の重要な要素が微妙だと「うーん...」

自分の演奏を真剣に聴くようになってから、それがダメダメなことに気づかされ、奏法云々以前の問題だということを叩きつけられました。

このままいっても、よくあるパッと見はいいけど実は内容が薄い映画、みたいな(笑)
自分で書いてて辛くなりますが(笑)

響きはまあまあでも、本当に素晴らしくて感動するコンサートをたくさん経験しているので、やっぱ中身って大事だなあ、と。

「スロー」な練習が必要


多様な音色が出せるようになると、作品解釈が難しくなります
なぜなら選択肢が増えるから。

また、響きの理想が高くなるので曲を仕上げるのも大変になります
「こんな状態じゃ人前に出せない!」と思ってしまうためです。

どんどん新しい曲を仕上げなければならない状況にいる方には、ちょっとツライかもです。

本当に良い演奏をするには、時間がかかります。
それは世界的ピアニストたちも口を揃えて言っていること。
いまの世の中は、何事も「ファスト」に消費していくことが求められているのも、向かい風ですね。

ピアノの状態によっては無力になる


ようやく「いろいろな音色が出せるようになってきた」と思っても、ピアノの状態によっては無力と化すことがあります。
まあ「無力」は言いすぎですが、ロシアピアニズムの良さを十分に出せません。

たとえば、調律によっては、タッチを変えても倍音があまり出ません。

びっくりした話です。
日本の調律は、基音がしっかり出て、あまり余計に響かないのが良しとされているそう。

実際に、調律師さんが「ヨーロッパ式の調律」と「日本で主流の調律」を目の前で実演してくださったことがあります。


「こんな違うの⁈」ってほど出てくる響きに差がありました。

日本で主流の調律」は、基音がしっかりしてます。
「ド」を鳴らすと、純粋な「ド」の音が大きく出てくる感じ。
正確です。

一方、「ヨーロッパ式の調律」は倍音が大きく出るため、「狂っている」と思われがちだとか。
実際は、狂っているわけではないです。
そして、耳には明らかに心地良い。

きっちり調律されたピアノも、しばらく弾かれると少し緩んで、響きが豊かになります
コンサートで、時間が経つほどピアノが鳴っているように感じるのも、そういう理由があったんですね。
でも、休憩時間にきっちり調律されると、また鳴らなくなる(笑)

調律だけでなく、打鍵や離鍵がうまくコントロールしにくいピアノも、かなりツライ
鍵盤がカクカク動いたり、重いというか硬かったりすると、タッチによる表情の変化がつけにくいです。

ここまで言っておいてあれですが、熟練者にはピアノの状態などあまり関係ないそうです(笑)
もともとの水準が高ければ、ピアノの状態が良くないとしても、素晴らしい演奏ができるとのこと。
目指すべきはそこですね...!

日本の多くの専門家には受け入れがたい身体の使い方



「変な弾き方をしている」と思われる可能性があります。

前の章で、昔からの教室とロシアピアニズムの教室に並行して通ったと書きました。

昔からの先生にたびたび言われるのは、

「それ、本当にあちらの先生がOKしてる身体の使い方なの?」

ということ。

椅子が高めだったり、指の運動が小さかったり、力を逃し方が違ったり、見慣れないですもんね。


もちろん僕が未熟なせいでもありますが(笑)

視野が狭くならないよう注意が必要


日本人は、流派みたいなのを特に重視する傾向があるそうです。
他のものには、ちょっと排他的になりがちな感じ。
まあ島国だし、そういった文化的土壌があるので、しょうがないですね。

実は僕も、「ロシアピアニズム至上主義」みたいな価値観になっていた時期がありました。


しかし、世界的に活躍しているピアニストの多くは、複数のピアニズムの良いところを組み合わせて自分の演奏スタイルを作り上げています
あれですよ、鬼滅の刃で炭治郎が「呼吸」を混ぜて良いとこ取りしたようなイメージ(分からない方はすみません)。


他の「良いところ」に目を向けられるような、広い視野を持ち続けたいですね。

モチベーションがあるなら、デメリットは大した問題じゃないです!


いかがでしたでしょうか。
フタを開けると、メリット:デメリットの項目は1:2のバランスになってしまいました(笑)

しかし、「理想の響きをどうしても手に入れたい」といった強いモチベーションがあるなら、デメリットは大した問題ではありません!


悩んでいる時間とエネルギーを学習に回す方が有益ですよね。
とりあえずやってみて、どうしても合わなければ途中でやめても問題ないですし。
気楽にいきましょう。

現段階で強いモチベーションがなく、なんとなく一歩を踏み出せない方もいらっしゃると思います。


そういった方は、実際にロシアピアニズムの演奏を聴きにいってみるのはいかがでしょうか。
ピアニストは、以下のページでも紹介しています。


コンサートに行くと、ロシアピアニズムでどんな演奏ができるのか、イメージも湧くと思います。
生演奏がやはり一番。
足を運んでみることは決して無駄にならないかと。

下記のページでは、当ブログのロシアピアニズムに関する記事をまとめています。
よろしければ、どうぞ。



最後まで読んでいただきありがとうございました。
それでは、今日も良いピアノライフを!

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