ロシアピアニズムのレガートは、まるで人が歌ってるみたいで素敵だな。
いったい何が違うんだろう?
こんな疑問に答えます。
こんにちは!ゆきおです。
ピアノを聴いていて、あまりに美しいレガートに心揺さぶられたことはありますか?
僕が初めて驚異的なレガートを聴いたのは、世界的ピアニストのダン・タイ・ソンさんのコンサートでした。
ショパンコンクール優勝者だから、という軽い気持ちで聴きに行ったのですが、それはもう夢のように美しかったのです。
2回目は、こちらも世界的ピアニストのセルゲイ・ババヤンさんのコンサート。
のちに、いずれのピアニストもロシアピアニズムで演奏されていることを知りました。
ロシアピアニズムには、ピアノの特性を活かして美しいレガートを作るための技があります。
今回はそんな「ピアノに特化したレガート奏法」についてお伝えしていきますね。
ピアニストの意見や動画を引用しながら、できるだけ分かりやすように解説します。
きっと、演奏に役立つ発見がありますよ。
ピアノの特性を活かしたレガートとは、「ディミヌエンドしながらレガート」
結論からいうと、ピアノで美しいレガートを作るためには「ディミヌエンド(だんだん弱く)しながらレガート」するのが適しています。
理由を説明します。
ピアノは音が減衰する楽器
まず、ピアノの性質をあらためて確認してみましょう。
ピアノは、いちど出した音を鳴らしつづけることができません。
音を鳴らしたら、その音はだんだんと小さくなっていきますよね。
「音が減衰する」ともいいます。
ピアノと同じように音が減衰する楽器は、ギターやハープなど。
反対に、音を鳴らし続けられる楽器もあります。
例えば、ヴァイオリンやクラリネットといった管弦楽器がそうですね。
こういった楽器は、いちど鳴らした音を、だんだんと大きくすることも可能です。
人の歌声もそうですね。
ディミヌエンドしながらレガートを作る
ピアノは「音が減衰する」楽器なので、それを踏まえれば美しいレガートを作ることができます。
まず、冒頭でふれた世界的ピアニスト、ダン・タイ・ソンさんの言葉を読んでみましょう。
(ロシアのピアニストの歌い方には、ヨーロッパのピアニストとは何か違う特徴があるように思う、との質問を受けて)
出典:焦元溥『ピアニストが語る!第3巻』より
「伝統的なロシアの歌い方はディミヌエンドを大切にしているからでしょう。
イタリアのベルカント唱法のアーチを描くようなフレージングとは全く違います。
ピアノでクレッシェンドをしようとすると、どうしても音の質が粗くなり、打楽器的な音になってしまいます。
先に音量を最高点にしてディミヌエンドしていけば、そのような問題は生じず、ピアノという楽器の歌唱性を美しく表現できます。
ラフマニノフやホロヴィッツの演奏は、その典型的な例です。」
ダン・タイ・ソン
つまり、フレージングの最初のほうに音量的な山を持ってきて、そこからだんだん弱くしていくということですね!
図にしてみました。
下手なのはスルーしてください(笑)
最初の方に大きめな音を出して、音の減衰に合わせながら、次の音を出していきます。
最後はしっかり「収まる音(フレージングの終わりがわかる音)」にします!
これが習得できれば、歌うような、美しいレガートの曲線美が作れそうですね。
いい耳の訓練にもなりますよ。
僕もがんばって修行しています。
もちろん、クレッシェンドしていくような表現も必要
全てのレガートをディミヌエンドにはできませんよね。
メロディーの途中で、クレッシェンド(だんだん強く)と指示されていることもあります。
メロディー+伴奏のような音型ならば、伴奏を調節してクレッシェンドしているように聴かせることもできますね。
ここでも、ダン・タイ・ソンさんの言葉を引用しておきます。
「ホロヴィッツは、ピアノを歌わせるフレージングを真に理解し、それを超人的な演奏方法で表現できる人でした。
出典:焦元溥『ピアニストが語る!第3巻』より
ピアノという楽器は、弦楽器のようなクレッシェンドはできません。
全ての音は、弾いた瞬間に固定され、減衰していくのですから。
しかし、ホロヴィッツの演奏は、絶妙なコントロールによって、想像もできないフレージングとクレッシェンドの効果を生み出していました。
これについて、私は彼を心から尊敬し、彼の音楽に対する考え、演奏方法を研究しています。」
ダン・タイ・ソン
また、管弦楽器やオーケストラといったものをイメージして作られた作品で「ディミヌエンドしながらのレガート」を多用すると、変な感じになってしまうかもしれません。
例えばベートーヴェン、シューマン、ブラームスの作品といったところでしょうか。
下記の楽譜のような、ショパンがよく使う弱拍から始まるフレージングも、冒頭に音量を出してしまうとその良さを損ねてしまいます。
そんなときは、冒頭ではなくフレージングの前半で山をつくれば、ディミヌエンドしていけますね。
このように、「ディミヌエンドしながらのレガート」はどこでも使えるわけではないですが、作品のどこで使うか考える楽しみがあります。
ロマン派の作品には使える場面が多いですが、モーツァルトのテンポが緩やかな作品でもいい感じに使えました。
歌うようなレガートを聴いてみましょう!
ここからは、実際の演奏で「ディミヌエンドしながらレガート」しているのを聴いてみましょう。
ウラディーミル・ホロヴィッツの演奏
まずは、本記事でもたびたび名前が出てきたホロヴィッツ。
フル版を掲載できないのが残念ですが...
なだらかにディミヌエンドしながら、フレーズを美しく描き出しています。
ところどころ、クレッシェンドしながら歌わせているのもよく分かりますね!
余談ですが、晩年のホロヴィッツは「ピアノで歌える作品」を選んでレパートリーにしていたそうです。
ベートーヴェンなど、オーケストラや弦楽四重奏の発想で書かれた作品は「あまり弾く気にならない」といっていたとか。
ヴァレンティーナ・リシッツァの演奏
こちらは、ラフマニノフの前奏曲Op.32-5。
演奏はヴァレンティーナ・リシッツァ。
ラフマニノフの作品には、ディミヌエンドしながらレガートをすることを前提に書かれている部分がたくさんあります。
自身も大ピアニストで、ピアノの特徴を熟知していたからこそ、そういった作品が生まれたのですね。
前奏曲Op.23-5は、ト長調の牧歌的な響きの中で、どこか遠い世界から聴こえてくるかのようなメロディーが歌われます。
表面上は穏やかだけど、どこか心がざわつくような、森の中にでもいるような、、
今にも割れてしまいそうな、危ういバランスの美しさ。
単にキレイの一言で片付けられない、深みのある小品です。
ラフマニノフの前奏曲で、ディミヌエンドしながらのレガートが特に分かりやすいのは、下記の作品です。
- 前奏曲Op.23-4
- 前奏曲Op.32-12
ただ、ピアニストによってはディミヌエンドしない場合もあるので、違いを聴き分けてみてくださいね。
ピアノならではのレガートを使えるようになって、表現の幅を増やしましょう!
今回は、ピアノの音が減衰する性質を生かした、「ディミヌエンドしながらのレガート」について解説してきました。
ピアノで美しいレガートを作るヒントは見つかりましたか?
美しいフレージングができようになると、弾いていて気持ちがいいし、聴いてくれる人もうっとりできるはず。
ぜひ、演奏に取り入れてみてくださいね!
下記のページでは、当ブログのロシアピアニズムに関する記事をまとめています。
よろしければ、どうぞ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
それでは、今日もよいピアノライフを!