ロシアピアニズムは手の形、構え方が違うというけれど、実際どうなんだろう?
具体的に知りたい。
こんな疑問に答えます。
こんにちは!ゆきおです。
今回は、ロシアピアニズムの手の形(構え方)について解説してみます。
実は、一言でロシアピアニズムといっても、その奏法は多様です。
なぜなら、いろいろな教師のもとで奏法が独自の発展をとげ、いくつも流派が生まれたから。
(現代では、「もはや流派は混ざり合って消滅した」とも言われているそうです)
僕が師事した先生は、ショパンの系譜の身体の使い方をする「ネイガウス流派」でした。
そのため、今回ご紹介するのはネイガウス流派の身体の使い方となります。
リスト系譜の流派についても、少し触れてみたいと思います!
ショパン系譜のロシアピアニズムは、手を「逆ハの字」に構える
ショパン系譜のネイガウス流派では、手を「逆ハの字」に構えます。
写真を載せつつ、解説していきます。
日本で主流の構え
日本では、鍵盤に対して手を真っ直ぐ構えるよう指導されることが多いようです。
僕も、はじめて行った教室で、そのように教えていただきました。
具体的には、こんな感じ。
日本で主流のドイツピアニズムは、こんな手の形をしています。
突然ですが、チェンバロという楽器の名前を聞いたことはありますか?
この写真の、奥の人が弾いている小型の楽器がチェンバロです。
鍵盤楽器にはながーい歴史があり、チェンバロよりもっと古いものもあります。
それがだんだん進化してピアノになりました。
ドイツピアニズムの構え方は、チェンバロや、もっと前の時代からの伝統的なものです。
むかし日本に伝わった奏法のうち、もっとも多かったのがドイツピアニズムなんだそう。
それが広がって、国内の主流はドイツピアニズムになったらしいです。
なお、フランスの奏法も構え方は同じです。
ショパン系譜のロシアピアニズムの構え
一方で、ショパン系譜のロシアピアニズムの構えはというと、、
こんな感じ。
「逆ハの字」になっていますよね。
日本で一般的に教えられる形とは違う!
最初、僕にはこの形が理解不能でした。
だって、弾ける気がしなくないですか?(笑)
「こんなんで弾けるの?弾きにくくない?」
「身体こわしそう」
と思われる方もいらっしゃると思います。
実は...やってみたら、かなり弾きやすかったんですよ。
それにはちゃんとした理由があるので、次の章で解説していきます。
「逆ハの字」の構えが合理性な理由とは?
一見すると、不自然そうに見える「逆ハの字」の形。
しかし、身につけてみると、めちゃくちゃ弾きやすい(笑)
身体に優しいんです。
僕自身、以前は何度か腱鞘炎になっていたのですが(それはもう辛すぎた)、そういった痛みからはすっかり解放されました。
理由を解説します。
逆ハの字が合理的な理由
読みながら実際に試していただけると、分かりやすいと思います。
逆ハの字で構えると、親指が鍵盤の奥の方にいくのがわかると思います。
親指が奥の方にいくと、腕自体もちょっと前に出る。
腕が前に出ると、肩甲骨が外側に開き、肩の無駄な力が抜けます。
それにより腕が緊張状態になりにくく、自由に動かせるようになるのです。
同様に、手首の力も抜きやすくなります。
楽な姿勢が保てて弾きやすいだけでなく、良い響きも出しやすくなります。
また、この形は上体の重さを指まで自然に伝えやすいです。
指だけでなく上体の重さを使うことで、強弱の調整が簡単になりますし、安定感も向上します。
実際に、この手の形を実践している超有名ピアニストといえば、ホロヴィッツとアルゲリッチでしょう。
下記の動画も参考になります!
逆ハの字の構えについては、5:15あたりからです。
ショパンの作品は、逆ハの字だと弾きやすい
この逆ハの字の構えは、ショパンが「一般的な構えは身体に不都合だ」と思って推奨したものといわれています。
ショパンの時代では、「真っ直ぐ」の構えが普通でした。
もし、ショパンが子供のころにピアノを習っていたら、この形は生まれなかったかもしれません。
ショパンはピアノ奏法に関して独学だったのです。
信じられないですよね。
ショパンの作品は、彼の推奨した奏法で弾けば、難しい曲でも弾きやすく書かれているとのこと。
多くのピアニストが、「ショパンの作品は、どれだけ難しくても手にとって自然に書かれているから、弾いていて気持ちがいい」というようなことをいっています。
常にこの形で弾くわけではない
念のため。
基本は逆ハの字の形をとりますが、常にこの形で弾くわけではありません。
音型によって柔軟に変えていきます。
例えば、
- ハイドン
- モーツァルト
- ベートーヴェン
- シューベルト
- ブラームス
- シューマン
といったドイツやオーストリアの作曲家は、ドイツピアニズムを身につけていました。
つまり、基本的には真っ直ぐの構えで弾くことを前提に作曲しています。
そのため、逆ハの字ではどうしても弾きにくい、ということもあります。
というか、ベートーヴェンやシューマンに関しては、理論優先であまり弾く人のことを考えていない(笑)
身体にとって弾きにくい曲が多いです。
音楽は素晴らしいんですけどね。
【要注意】ドイツピアニズムでこの構えは避けましょう!
注意点です。
逆ハの字の構えは、重力奏法を前提としています。
一方で、ドイツピアニズムでは、指の関節を固めて音を出します。
その場合に逆ハの字の構えをすると、身体に無理が生じる可能性が高まってしまうのです。
これは、有名な書籍『ピアニストなら誰でも知っておきたい「からだ」のこと』でも、故障を招きやすい「危険なポジション」とされています。
一方で、この本はチェンバロやオルガンなどを含む、全ての鍵盤楽器奏者を対象としたもの。
そのため、「現代のピアノを弾くことに特化」し、指の力に頼らないで弾くロシアピアニズム(さらにその流派のひとつ)は特に考慮していないのかも、と思います。
上記の本は、全体としては良書なので、気になる方は手にとってみてください。
リスト系譜の流派はどういう構え?
ここまで、ショパン系譜のネイガウス流派の奏法について解説してきました。
ロシアピアニズムの流派は、リストの系譜とショパンの系譜に大別されています。
それでは、リスト系譜の流派は、どのような身体の使い方をしていたのでしょうか。
リストは、かの有名なツェルニーからドイツピアニズムで訓練されました。
その後、従来の弾き方では困難だった巨大な音楽表現を実現するために、ショパンとは違う方向性で新たな奏法を編み出します。
それが、背筋や胸筋、身体の重さなど全身を使って弾く奏法だったのです。
彼の弟子は多く、そのうちの数人はロシアにリストのピアニズムを伝えました。
リスト系譜の流派は、ドイツピアニズムと同じく鍵盤に対して真っ直ぐ構える方が多いです。
一方で、鍵盤への力の伝え方は、ドイツピアニズムとは大きく違うといえます。
リスト系譜のロシアピアニズムを学んだ日本人ピアニストの書籍では、その一端を垣間みることができて興味深かったです。
- 土田定克『ラフマニノフを弾け』
- 原田英代『ロシアピアニズムの贈り物』
どちらも、リスト系譜のフェインベルグ流派の先生からロシアピアニズムを伝授された方。
「手首の弾力性を利用し、腕、肩、背中、ひいては体全体の重みを使って弾く」と解説されています。
読み物としても面白かったので、気になる方はぜひ!
ピアニズムによる手の形(構え方)の特徴をまとめます
いかがでしたか?
今回は、ロシアピアニズムの手の形(構え方)について解説してきました。
- ドイツピアニズムは「真っ直ぐ」
- ショパン系譜のロシアピアニズムは、重力奏法で「逆ハの字」
- リストの系譜のロシアピアニズムは、重力奏法で「真っ直ぐ」
もちろん、ピアニストによってベストな身体の使い方を追求されているので、上記の限りではありません。
しかし、これを知っていると、コンサートや動画の楽しみも増えそうですね!
下記のページでは、当ブログのロシアピアニズムに関する記事をまとめています。
よろしければ、どうぞ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
それでは、今日もすてきなピアノライフを!