ピアノで美しい弱音を出したいけど、何だか弱々しい音になってる気がする…
どうすれば、きれいな弱音が出せるのかな?
こんな疑問にこたえます。
こんにちは!ゆきおです。
今回は、「きれいなピアニッシモの出し方」について解説していきます。
よく、ピアニッシモを出すのはフォルティッシモを出すより難しいといわれますよね。
確かに、上質なピアニッシモを出すためには、身体の使い方をかなり意識的に工夫しなければなりません。
僕はロシアピアニズムを学びはじめて3年経ちますが、まだまだ思いのままに弱音を出せません。
しかし、「前よりだいぶ良くなってきた」とは言ってもらえます。
これまで激しくつまづいたこともあったので、同じような道に迷いこんでしまう方が減ることを願って書いていきますね。
ピアノできれいな弱音を出すために、知っておく必要があること
きれいな弱音を出せるようになるためには、まず下記の違いを認識できることが重要です。
- 「通常の弱音」
- 「浮いた弱音」
- 「よく響く弱音」
それぞれ解説していきます。
「通常の弱音」とは
「通常の弱音」は、その名のとおり、特別な主張のない弱音。
主張が少ないといえども、うまく鳴らせば美しい音になります。
使いどころは多く、たいていの弱音はこのカテゴリに入るでしょう。
「浮いた弱音」とは
「通常の弱音」よりさらに弱い音を出そうと、鍵盤の浅いところをゆっくり弾くと「浮いた弱音」になります。
これは、いわゆる「基音の芯」がほとんどない状態の音。
(基音の芯についてはこちらの記事で解説しています)
耳あたりは優しいのですが、芯がないため、どうしてもモヤっとした弱々しい印象になります。
「浮いた弱音」で主役のメロディーなどを弾いてしまうと、聴き手が主体的にキャッチしなければメロディーが分からない、ということにも繋がってしまいます。
一方で、「あまり声部を目立たせずにハーモニーの色を作りたいとき」や、「響きのバランスを取るために引き算する音を作りたいとき」には、力を発揮します。
ちなみに僕は「浮いた弱音」を良い音だと勘違いしていました。
先生からは「その音は、小さい部屋だから聴こえるけど、もっと広いところだと聴こえないわよ!」と言われ続けていました…
自分ではよく聴こえるし、耳あたりも優しいのですが、実は致命的なのです(汗)
その理由は、次の章で解説します。
「よく響く弱音」とは
「よく響く弱音」とは、「基音の芯が細く存在する弱音」です。
実際に聴いてみると分かりやすいと思うので、細い基音の芯を作りながら「よく響く弱音」で弾いている動画を紹介します。
演奏は、フォルティッシモの記事でも紹介したガブリーロフさん。
前に取り上げた爆音とは真逆の、ガラス細工のように繊細な演奏です。
ピアニッシモでも、メロディーにしっかり基音の芯があるのがよく分かりますね!
基音の芯があることで倍音が膨らみ、大ホールでも隅々までのびていく弱音になります。
しかし、テクニックとしてはおそらく最難関でしょう。
それについては次章で紹介しますね。
「普通の弱音」、「浮いた弱音」、「よく響く弱音」の違いが何となく分かりましたか?
次の章では、きれいな弱音を生むメカニズムや、必要なテクニックを解説していきます。
きれいな弱音で弾くためのポイント
ここからは、きれいな弱音を出すために必要なテクニックなどを解説していきます。
弱々しい音にならないためには?
とても重要な言葉を紹介します。
ジュリアード音楽院にロシアピアニズムをもたらした、ジョセフ・レヴィーンの言葉です。
ポイントは、「ピアニッシモだとしても、鍵盤は底まで到達する」ということ。
「繊細な奏法とは、ただ鍵盤を軽くひくことではないということを自覚しなければならない。
出典:ジョセフ・レヴィーン『ピアノ奏法の基礎』より
デリケートな曲をある程度軽くひくことのできる生徒は大勢いる。
しかし、彼らは一曲をひくうちに、たくさんの音を落としたり、また、たくさんの音を半分しか出さなかったりする。
そのようなひき方は、専門家だけでなく、素人の聴衆でさえもいらだたせる。
繊細な奏法は、鍵盤を完全に打鍵しないでは得られない。
言いかえれば、最もデリケートな部分でも、音ははっきり出ていなければならないし、黒鍵でも、白鍵でも、鍵盤は必ず底までひかなければならない。
鍵盤を底まできちんと下ろすことは非常に大切だ。」
「鍵盤を浅くひく習慣は、白けた色彩のない演奏を造りだす原因になる。
大勢の生徒は、知らずに浅くひいているし、それは、また、知らないうちにくせになりやすい。
そして、そのようなひき方をすると、演奏を不確かな、おじけのついた非芸術的なものにし、聴衆からみると、演奏者はまったく自信がないようにみえる。
これからしばらくの間、君たちは練習するときに、果たして自分の弾き方はどうか、ただ、鍵盤の上を浅くすべってひいているのではないかを調べてみると良い。
君が徹底した初歩の教育を受けていない限り、多分、十ひく鍵盤のうち一つは浅くひいているに違いない。
君の演奏は、それだけでも素人くさくする十分な原因となるのだ。
そして、もし自分のひき方がそうであったなら、君は、スケールをゆっくりひく練習と、簡単な旋律と和音でできている曲から改めて練習しなおすことだ。」
ジョセフ・レヴィーン
上記の「半分しか出さない音」「浅くひいた音」とは、「浮いた音」と同じと考えてよいでしょう。
浮いた音を避けた方がいい理由がよく分かりますね。
ちなみに僕は、この助言に従って、初歩からやり直しましたよ(笑)
きれいな弱音を出すための身体の使い方
先ほど紹介したジョセフ・レヴィーンは、繊細な音を出すための重要項目として下記の3つをあげています。
- 腕全体を空中に漂っている感じに保つ
- 鍵盤をきちんと底まで下ろして弾く
- 指先はいつも鍵盤の表面に用意しておく
僕がレッスンで指導を受けた内容も、これと相違はありません。
「腕全体を空中に漂っている感じに保つ」とは、腕に力を入れたり筋肉を硬直させたりせず、かといってダラダラに脱力しているわけでもない状態のことです。
うまく感覚が掴めると、本当に浮いている感じがするのです。
腕がとても楽に動かせるようになり、弱音のコントロールが非常にしやすくなります!
「きちんと底まで下ろして弾く」については、底に指が当たる衝撃音を出すのは避けましょう。
音全体の印象が固くなるうえ、倍音が出にくくなってしまいます。
あらかじめ指の関節は脱力しておき、手のひらの筋肉や身体の重みを使って弾くのがよいです。
「指先はいつも鍵盤の表面に用意しておく」のは、指のコントロールを助けるためです。
鍵盤の表面より高いところから下ろすと、コントロールが難しくなって大きな音や浮いた音が出やすくなってしまいます。
これについてレヴィーンは、「それを実行することはたやすくない。まして、忍耐力の乏しい生徒にとっては、たいへん難しい課題だろう」といっています。
よく響く弱音を出す方法
最難関の「よく響く弱音」の出し方も、解説しておきます。
「よく響く弱音」とは、「基音の芯が細く存在する弱音」でしたね。
細い基音の芯を作るには、「ハンマーが弦に当たるエネルギーを小さく」保ちつつ、「打鍵速度を上げる」必要があります。
つまり、ハンマーが「通常より速いスピードで瞬間的に弦を打つ」必要があります。
ハンマーが、かすめるように弦に当たるイメージをすると分かりやすいかもしれません。
瞬間的に弦を打つことで、弱音ながら弦の振幅が大きくなり、豊かな倍音が生まれます。
ほんの一瞬だけハンマーを弦に当てるには、鍵盤を下げる途中の極薄いポイントを狙って打鍵する必要があります。
狙うのがそのポイントより深くなると基音が太くなってしまい、浅くなると「浮いた音」が出てしまいます。
しかも、そのポイントはピアノによってバラバラです。
ポイントを狙いつつも、前述のとおり鍵盤は底まで到達するようにします。
しかし、鍵盤は底までいく一方、指は途中でブレーキをかけるのです(笑)
気が遠くなりますね。
しかし熟練者ともなると、初めて触れるピアノでも即座にポイントを見つけて、よく響く音を鳴らせるそうです。
これができるようになるには、長い年月をかけて指を自在にコントロールできる筋力(虫様筋、前腕の屈筋など)をつけていく必要があります。
また、鋭敏な触覚も育んでいかなければなりません。
きれいな弱音を出せるようになって、多彩な表現を実現しよう!
今回は、きれいな弱音の出し方について解説してきました。
弱音で弾くためのヒントは見つかりましたか?
最難関のテクニックを除くと、おさらいすべき重要ポイントは以下のとおり。
- 腕全体を空中に漂っている感じに保つ
- 鍵盤をきちんと底まで下ろして弾く
- 指先はいつも鍵盤の表面に用意しておく
弱音は、強音に比べて表情がつきやすいです。
人間の感覚的に、一定以上のフォルテになると強弱や抑揚といった変化が認識しにくくなる一方、弱音ではそれがとても分かりやすい。
数年前に聴きにいったコンクール(ピティナ特級)の2次審査では、弱音を美しく出している方たちは審査を通過されていました。
通過しなかった方たちも弱音を出されてはいたのですが、ダイナミクスの幅や音質に明らかな違いを感じたのを覚えています。
弱音の表現力を上げることは、演奏レベル全体を底上げすることになると思いますので、コツコツ頑張っていきましょう!
下記のページでは、当ブログのロシアピアニズムに関する記事をまとめています。
よろしければ、どうぞ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
それでは、今日もよいピアノライフを!